愛車と暮らす家

ビルトインガレージのある現代町屋で
愛車との暮らしを愉しむ

談/山本剛久(大兵工務店棟梁・一級建築士)
愛車と暮らす家

往時の面影を今に残す、
蔵の街・とちぎの歴史街道

弊社のある栃木市は、古い街並みが残る「蔵の街」として知られ、そのたたずまいから「小江戸」とも称されています。
中でも嘉右衛門(かうえもん)町は、旧日光例幣使道に沿った南北に細長いエリアで、ここには見世蔵や土蔵などの歴史的建造物が数多く残っています。江戸末期から昭和前期ごろにかけての面影を残す歴史的風致は、国の重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)に選定され、まちづくりやにぎわいの創出など、観光面でも注目されるようになりました。
栃木市で生まれ育った私自身も蔵の街並みが大好きで、建築に携わる者の一人として強い興味・関心があります。数年前、とあるご縁で旧日光例幣使道沿いの空き物件を紹介されたことをきっかけに、自らリノベーションしてサテライト・オフィスとして活用しています。最近では地域の方々との接点も増え、広くまちづくりにも関わるようになりました。

愛車と暮らす家

重伝建保存地区に隣接する、
周辺環境に溶け込んだ現代町屋

とある日、東京の設計事務所から連絡がありました。栃木市内の物件を手がけるにあたり、地元の施工業者を探していたそうです。弊社のウェブサイトを観てのお問い合わせでした。
物件の場所を聞くと当オフィスの目と鼻の先です。重伝建保存地区と通りを1本挟んで隣接する住宅地でした。
北園空間設計代表・北園徹氏(東京都八王子市)に詳しく話を聞くと、施主のM様は20代でアンティークやヴィンテージに深い造詣があり、新居を建てるためにわざわざ嘉右衛門町の土地を探したそうです。

愛車と暮らす家

新居のプランの中で最も重要なテーマが「愛車と一緒に暮らすこと」でした。生活空間の中で四六時中、車を眺められることが条件です。ちなみに愛車は「ハコスカ」の愛称で知られるスカイラインGT-R。旧車マニア垂涎の1台です。
北園氏はまず、愛車と一緒に暮らす機能としてビルトインガレージを設計に落とし込み、次に、M様の希望に沿った特殊な天井の施工法や土間空間の仕上げ方、水廻りの造作などを詰め、最終的には周辺環境に考慮した「現代町屋」ともいえるプランを提案しました。新築にも関わらず、周辺環境にしっくり馴染んだたたずまいが印象的です。

これまで手がけたことがなかった、
極めて希少な伝統工法にトライ

折上格天井

北園氏の話を聞く中で私は、施主のM様はこだわりの強い方だと感じました。どんな家に住みたいのかという考えが明確で、建材や部材、住宅設備などのイメージがはっきりしていたからです。
そんなM様の住まいづくりにおけるもう一つのコンセプトは「経年美化」で、時が経つほどに味わいを増す「骨董品のような家」を希望していました。自ずと木や石などの自然素材に辿り着きます。
例えば、玄関を入ると土間空間が広がり、その先のキッチンは総タイル張りです。洗面台はクラシックなデザインのインポート物、浴室は高級旅館のようなしつらえで床面に割栗石が敷かれ、金彩色の浴槽は信楽焼の特注品です。
中でも一番驚いたのがリビング天井の仕上げ方でした。日本家屋の天井工法として最も格式が高い「折り上げ格天井」は極めて高度な技術を要します。木材の特性を知り尽くしていないと施工は不可能で、自ずと依頼できる業者は限られます。

折上格天井

北園氏はこの難しい要望にどう応えたらよいのか思案していたとき、伝統工法を用いた一般住宅や社寺建築、蔵や古民家の新築・修復・再生を手がける弊社の存在を知り、しかも地元・栃木市の工務店であることから、一筋の光明を見出した思いで連絡を取ったと聞きました。
東京の一級建築士事務所からわざわざお問い合わせをいただいたのは大変ありがたかったのですが、この「ビルトインガレージのある現代町屋」の施工に加わる際、1点だけ不安材料がありました。
実は、数寄屋建築や社寺建築を手がける中で「格天井」は数多く施工していますが、より格式の高い「折り上げ格天井」は私自身、手がけたことがなかったからです。ましてや一般住宅での施工は聞いたことがありません。ベテラン職人に尋ねると「最後に手がけたのはかれこれ二十数年前です」とのこと。折り上げ格天井は今や、極めて希少な伝統工法だったのです。

折上格天井 折上格天井 折上格天井

建て主のこだわりと熱量に共感。
思わず、職人魂に火が付いた!

折上格天井 折上格天井 折上格天井

高度かつ希少な伝統工法であれば当然コストも嵩(かさ)みます。M様としては折り上げ格天井はビルトインガレージと並ぶ、住まいづくりの絶対条件の一つで外せません。しかし、予算にも限度があることから、天井板を木目調クロスにしてコストダウンを図る案が持ち上がりました。
苦肉の策だったことは重々わかるのですが、私自身も職人たちも、折り上げ格天井の施工にありったけの技術を注ぎ込むつもりで準備していただけに、落胆は大きかったですね。
施主様と設計者のやりとりに施工業者が口を挟むわけにもいかず、悶々としていたのですが、しばらく考えてこう申し出ました。
「大兵工務店側が天井板(スギ材)を用意するので、当初の計画通りに実現させませんか?」と。極めてレアなケースですが、折り上げ格天井にこだわるM様の熱量を感じ、自ら判断しました。職人魂に火が付いてしまったわけですが(笑)、地元工務店としての面目躍如を果たしたとも言えそうです。
かくしてM様邸の施工は計画通りに進んでいきました。途中、コロナ禍の影響でインポート資材の納期が遅れるなどアクシデントがありましたが、大きなトラブルや遅延はありませんでした。

折上格天井

施工を終えて

愛車と暮らす家

施工を終えて

施主・M様の感想

北園先生や山本棟梁をはじめ、大工さんなど多くの職人さんに支えられ、理想とする新居を建てることができました。契約から完成までほぼ1年を費やしましたが、その間に出会った職人さんは全員が腕利きです。プロの作業を間近に見て、自分自身も建築に関して多くを学びました。振り返ってみると、人との出会いも含め、本当に幸運だったと思います。新居での暮らしは、自然素材ならではの「経年美化」を存分に楽しみたいですね。

愛車と暮らす家

北園空間設計代表・北園徹氏の感想

大兵工務店が積み重ねてきた数々の施工実績と、職人同士の技術の継承があったからこそ、極めて難易度の高い施主の要望に応えることができたと思います。つまり、地元工務店と腕利き職人の良好なパートナーシップ(協働関係)が保たれていたからこそ、実現できた案件ではないでしょうか。こうした業者間のネットワークは地域の財産として、今後も絶やしてはならないと思います。

室内空間に広がる、
日常の中の非日常

振り返ってみると、住まいづくりは一棟ごとに物語(ストーリー)があることを改めて実感します。特にM様邸では折り上げ格天井の施工が最も印象的、かつストーリーを感じた場面でした。
寸法通りの墨付け、木材の加工、部材の取り付けのすべての工程で難易度が高く、職人泣かせの作業の連続でしたが、工夫を凝らしてなんとか収めることができました。作業後に天井を見上げると「日常の中の非日常」とも言える、まさに唯一無二の空間になったと思います。
さらに視線をそらすと、リビングと格子ガラスで間仕切られたビルトインガレージがあります。中央に鎮座するハコスカはM様の良き相棒といった感じで、シャンパンゴールドのボディカラーが空間に映えます。ダーク色の壁とのコントラストも見所の一つで、とても贅沢な空間だと思いました。
住み手の興味や関心のすべてを注ぎ込んだ唯一無二の住まいが、およそ1年を要してここに完成です。本案件は施主様、設計事務所、施工業者の三者が、同じゴールを目指してそれぞれの持ち味を発揮するなど、建築のプロセスを存分に楽しめました。

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